本書は、韓国の近代史における重要人物、全斗煥元大統領(1931~2021)の生涯と政治的影響を詳細に分析した評伝である。
全斗煥は韓国社会で今もって評価が分かれる存在だが、豊富な1次資料と中立的な視点で、彼の功罪をバランスよく描き出す。
著者は、全斗煥の軍人時代から大統領退任後までを時系列で丁寧に追い、彼の決断の背景を政治・社会・国際的文脈で解説。特に”光州事件”の詳細や当時の米国の関与、経済政策の成功と限界に焦点を当て、単なる個人史を超えた歴史分析を展開する。
著者による客観的な筆致は、全斗煥への賛否を押し付けず、読者に判断を委ねる点で優れている。
ただし、一般読者にはやや専門的な記述が多く、韓国史の予備知識がないと理解が難しい部分もある。また、全斗煥の私生活や人間性への掘り下げが少ない点は、人物像の立体性を求める読者には物足りないかもしれない。
だが、韓国の”民主化=左傾化”過程や政治の複雑さを理解する上で、本書は学術的かつ読み応えのある一冊だ。韓国近代史に関心のある読者に強く推薦する。
ミネルヴァ書房刊
定価=3850円(税込)
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