今回は2025年末であることから、韓国経済の現状を概観した上で、韓国政府が示す産業政策を確認してみたい。
[韓国経済の現状]
本年7~9月期の韓国の国内総生産(GDP)速報値が物価変動の影響を除いた実質で前期対比1・16%増加し、11月25日までに速報値を発表した26カ国・地域のうち、3番目に高い成長率を記録している。
こうした中、中央銀行である韓国銀行は11月27日に発表した改定経済見通しで、25年の実質国内総生産(GDP)成長率を1・0%とし、8月に発表した見通し(0・9%)を0・1ポイント上方修正した。
来年の成長率見通しは1・8%に引き上げられた。更に、27年の経済成長率見通しを1・9%とした。
尚、韓国銀行は、今年上半期にも2月、5月の2回利下げを行い、緩和基調を継続している。 しかし、金融通貨委は下半期に入ると4会合連続で金利を据え置いた。機動的な金融政策が採られていると見ておきたい。
一方、国際機関である国際通貨基金(IMF)は、本年9月に実施した調査をもとにして、韓国経済に関する年次審査報告書を公表した。
韓国経済について、サービス業や中小企業に対する規制緩和、人工知能(AI)導入などが長期的な生産性向上の核心と指摘し、李在明政権の経済成長戦略がAI活用拡大と革新に焦点を置いている点を高く評価しているとの発表をしている。
経済状況については、韓国経済が回復に向かい、来年ははっきりと回復傾向を示すと予想したとしている。
[不安定な金融情勢]
李昌鏞韓国銀行総裁は、「現時点は金利引き上げ議論の段階ではない」とコメントしている。また、グローバル投資銀行(IB)と言われているJPモルガンは、「2026年アジア株式市場展望報告書」の中で、韓国を最優先「比重拡大」国家として提示して強い楽観論を示したことが韓国国内では伝えられている。
JPモルガンは「韓国がアジアで最も早く支配構造改革を推進する国家である」と評価している。韓国経済に対する前向きな見方を韓国国内では歓迎する声が出ている。
一方で11月の1カ月間の米ドル対比ウォンの価値が全世42カ国のうち最大の幅に下落したことも韓国国内では注目されている。ウォンが「グローバル最弱体通貨」になったとしても過言ではないとの懸念である。
米ドルが主要国通貨に対して強含みの動きを見せる状況で、国内投資家が海外株式投資を拡大したことがウォン価値の下落の背景となっているとの見方が示されている。
マクロ経済では比較的堅調な推移を示し、将来予測も改善してくると見られている韓国経済ではあるが、足下では不安要因もあり、「まだら模様」の様相を示している。
[先端分野戦略]
こうした中、韓国政府は次の経済成長のコアとなる産業の育成に力を注いでいる点に、筆者は注目している。そうした事例の一つが先端分野戦略である。
エヌビディアのジェンスン・フアン最高経営責任者(CEO)は10月31日、韓国南東部・慶州で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)CEOサミットで、韓国企業4社に計26万枚、最大14兆ウォン(約1兆4900億円)規模のGPUを供給する計画を発表していたことを受けての国家的対応を示したのである。
国家的な動きとして韓国はコア分野の育成を進めている。韓国政府は、国家としての重要な経済政策対応を示していると見ておきたい。
以上、少しでもご参考になれば幸いである。
(嘉悦大学副学長、愛知淑徳大学名誉教授 真田幸光) |