米国発「3500億㌦の請求書」

外貨準備高の現金6% 短期外債も火種に
日付: 2025年09月24日 09時58分

 米国が韓国に要求した直接投資3500億ドルの現金拠出は、実質的に「国庫を空にせよ」と迫るに等しい。この金額は韓国の年間予算の71%、外貨準備高の84%に達する莫大な規模で、1997~98年の通貨危機に匹敵する国難であり、「第二の外貨危機」説まで広まっている。


 現金拠出が不可能な理由

3500億ドルは2025年度の国家予算(673兆ウォン)の71%、外貨準備高(8月末時点4163億ドル)の84%に相当する。
米国の要求は、韓国にとって現実的に受け入れ難い。その背景には外貨準備高の仕組みがある。韓国銀行によると、総額4163億ドルのうちすぐに動かせる現金性資産はわずか6%(250億ドル)にとどまり、残る88%(3661億ドル)は米国債など有価証券だ。米国の要求に応える場合、これらの証券を市場で大量売却する必要があり、それ自体が金融不安を煽りかねない。
さらに短期外債も大きな懸念材料だ。25年第2四半期時点で、1年以内に返済期限を迎える短期外債は1671億ドル。これは外貨準備高の40・7%を占める。ドル需要の急増と償還圧力が重なれば、外貨流動性が急速に逼迫するリスクがある。 
これは、短期外債の急増で外貨準備高が枯渇した1997年のIMF危機のメカニズムと酷似しており、韓国の信用格付け下落にも直結しかねない。

 常設通貨スワップの成否

韓国政府がリスク対応の切り札として掲げるのが、米国との「常設・無制限通貨スワップ」の締結だ。08年の金融危機(300億ドル)や20年のコロナ禍(600億ドル)の際に締結された韓米通貨スワップは、市場の安定に効果を上げた。
しかし、そのハードルは高い。米国は日本、英国、EUなど主要5カ国としか常設スワップを結んでおらず、非基軸通貨国である韓国の要請には消極的とされる。
通貨スワップは「諸刃の剣」でもある。締結すれば安心材料になる一方、実際に使用すればその国の外貨調達力への疑念という逆風を招く。それでも政府は、米国とのドル・スワップは外為市場の最後のセーフティーネットとして欠かせないとみている。
米国との通貨スワップは一定の効果があることも証明されている。1998年の危機では、発表直後にウォン相場が急落から反転し、80ウォン近く値を戻した。コロナ禍でも200億ドルを利用後、2020年7月には全額返済し危機を乗り越えている。

 第二の通貨危機の不安

では「第二の通貨危機」説の現実味はどうか。多くの専門家は、1997年のような国家破綻の再来は可能性が低いとみる。外貨準備高は当時(約200億ドル)の20倍以上に増え、金融・外為監督制度も大幅に強化されたためだ。短期的な影響は避けられなくても、IMFへの救済要請に追い込まれる最悪の事態までは想定しにくい。
ロイターは「韓国は日本型の通商協定を結ぶことはできない」と報道。フィナンシャル・タイムズ(FT)も「ウォンは円に比べ変動性が大きく、外貨準備も限られている」と指摘している。

 試練に直面する韓国経済

結局、韓国が巨額の現金拠出に応じる可能性は極めて低い。焦点は投資の具体的な執行方式(現金か、保証や分割か)、そして米国とのスワップ交渉の行方次第ということだ。3500億ドルの対米投資をめぐるジレンマは、韓国の経済・金融の安定性が大きな試練に直面していることを浮き彫りにしている。

7月29日(現地時間)、ワシントンDCで開かれた韓米両閣僚による貿易交渉


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