いま韓国で「テキストヒップ」というトレンドがZ世代を中心に広がっている。読書を知的でスタイリッシュな行為として捉える文化だ。その象徴ともいえるのが「ソウル野外図書館」。ソウル図書館が運営する革新的な図書館モデルで、従来の建物内の図書館の枠を超え、都市の公共空間を活用した「屋外の読書空間」。ここではSNS投稿とも連動し、若者がおしゃれな空間で本を読む写真をSNSでシェアする姿が目立つ。「テキストヒップ」トレンドについて取材した。
ソウル野外図書館は、「書を読むソウル広場」「光化門ブックマダン」「清渓川の澄んだ川辺」という三つの主要な場所で展開されている野外読書空間。
昨年は170万人以上が訪れた。今年はすでに上半期(1~6月)で100万人が訪問している。「建物のない図書館(Buildingless Library)」とも呼ばれ、屋外の開放感を活かし、市民が気軽に本と触れ合える場となっている。ソウル図書館が厳選したさまざまなテーマの書籍(約5000冊)が置かれ、予約や入場料なしに誰でも利用可能だ。各エリアごとに異なるコンセプトで運営されている。
■書を読むソウル広場 ソウル広場は「都市のリビングルーム」をコンセプトに、家族連れや友人同士でリラックスできる空間を提供。広々とした芝生に設置された「家族用ビーンバッグ」やソファで、くつろぎながら読書を楽しめる。
■光化門ブックマダン 光化門広場では「ブックキャンプ」をテーマに、キャンプ場のような雰囲気が特徴。北漢山を背景に、色とりどりの書棚や、ハッチ(ソウルのマスコット)のオブジェが設置され、フォトジェニックな空間が広がる。「To〓Day」と題した特別な公演も行われ、読書だけでなくアートや音楽も楽しめる文化プラットフォームとして機能。
■清渓川の澄んだ川辺 清渓川のモジョン橋とクァントン橋の間にあるこのエリアは、「水の音を聞きながら読書」をコンセプトに、涼やかな川辺での読書体験を提供。花の装飾やハッチのフォトゾーンが設置され、ロマンチックな雰囲気が人気。夏の夜には「夜の野外図書館」として16時から21時まで運営される。
ソウル野外図書館の人気は、韓国で広がる「テキストヒップ」トレンドと密接に関連している。
このトレンドは、Z世代を中心に、読書を知的でスタイリッシュな行為として捉える文化だ。このムーブメントは、単なる読書ブームを超えて、読書を自己表現や知的アイデンティティーの一部として捉える文化的な側面を持っている。
インスタグラムなどのSNSでは、「#テキストヒップ」「#ブックスタグラム」(ともに韓国語表記)のハッシュタグで、本を持ったおしゃれな写真や読書会の様子が共有され、若い世代が「読書=かっこいい」というイメージを広めている。カフェで本を読む写真や、読書ノート、本の表紙をアートのように撮影した投稿が多数見られ、このトレンドは、読書を個人のブランディングや自己表現の一部として捉える若者の価値観を反映している。
韓国では、国民1人当たりの年間の読書量が平均1・7冊と、諸外国に比べて少ないと言われてきた。だが「テキストヒップ」トレンドは、この「読書離れ」を打破する可能性を秘めている。若者層の読書への関心が高まることで、出版業界は新たな戦略として読書グッズやイベントを強化している。
一方、長期的な読書文化の定着には継続的なイベントや教育が必要だろう。SNSでの「見せる読書」に偏りがちで、本を深く読む習慣が育ちにくい商業的プロモーションに頼るだけでなく、学校や地域での読書環境整備が求められる。現在のトレンドはZ世代中心だが、全世代への訴求も課題だ。
ソウル野外図書館のような取り組みを拡大し、多様な読書体験を提供することで、これらの課題克服が期待される。