韓国と米国の対北政策が急展開を見せている。韓国政府は11日、軍による対北拡声器放送の中止を決定。12日と13日には李在明大統領が「早急な南北対話チャネルの回復」を訴えつつ最前線部隊を相次いで視察した。新政権は今後も追加的な融和措置を打ち出すとみられ、米国も北韓に対し「ラブコール」を送っている。
(ソウル=李民晧)
■韓米が北韓にラブコール
ドナルド・トランプ米大統領は、北韓の金正恩総書記に親書を送る構えを見せ、米朝対話の再開に意欲を示した。
キャロライン・レベット大統領報道官は11日(現地時間)、一部報道で伝えられた「北韓による親書拒否」について問われると、「大統領は金正恩氏との書簡交換に引き続き前向きだ」と述べた上で、「2018年のシンガポールでの進展を再び実現したいと考えている」と強調した。
「NKニュース」などは、米国高官の話として「トランプ氏が金正恩あての親書をニューヨーク駐在の北韓外交官に渡そうとしたが拒否された」と報じており、ホワイトハウスはこれを否定しなかった。
韓国の新政権も、北韓に軟化の姿勢を見せている。李大統領は12日、ソウル麻浦区で開かれた「6・15南北首脳会談25周年記念式典」に祝辞(代読)を寄せ、「非生産的な敵対行為を中止し、対話と協力を再開する」と表明。
「平和、共存、繁栄の韓半島の実現に向けて努力する」と語った。あわせて(1)偶発的衝突の防止(2)危機管理体制の再構築(3)南北対話チャネルの復元に取り組む方針などを明らかにした。
合同参謀本部によると、同日午後11時ごろまで北韓側の騒音放送が確認された。しかし、以降は休戦ライン全域で騒音放送は「聞こえない」状態が続いている。韓国の拡声器放送は11日午後2時に中止された。
■ノーディールのトラウマ
韓国と米国からほぼ同時に届いた融和メッセージに対し、北韓の動きが注目されている。韓国内では、新政権が南北関係修復に強い意欲を示していることから、南北連絡チャネルの再稼働や、18年の「9・19南北軍事合意」の再現が試みられるとの見方が出ている。
一方で、北韓がすぐに新政権の融和アプローチに応じる可能性は低い。金正恩政権は依然として韓国を「敵対国家」と位置づけており、南北を統一対象とする関係性を即座に受け入れるとは考えにくい。加えて、ロシアとの緊密な連携が北韓の利益につながるとの判断もあるとみられる。
また、中露との関係や、19年のハノイ米北首脳会談で成果を得られなかった「ノーディールのトラウマ」も、米国に対する警戒感を強める要因となっている。
金正恩は12日のロシアの祝日に際し、プーチン大統領に祝電を送り、「ロシアは兄弟国家であり、真の戦友、模範的な同盟国として関係が発展した」と表現した。
ただし中長期的には、金正恩がトランプ氏からの対話要請を無視し続けることは困難との見方もある。
ウクライナ戦争の行方や米露関係の変化を見極めた上で、北韓は自らにとってより有利な選択肢を取ると考えられ、そうした状況を前に綿密な損得勘定を行うものとみられる。
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13日、李在明大統領が最前線地域・京畿道延川郡のビリョン展望台で望遠鏡をのぞき、北韓側を視察した